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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)8852号 判決

原告 間中浜之助

被告 高田鋼管株式会社 外一名

主文

一  被告高田鋼管株式会社は原告に対し、金一二七万四、五六七円およびこれに対する昭和四四年四月一九日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を付加して支払え。

二  原告の被告高田和夫に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告高田和夫との間では全部原告の負担とし、原告と被告高田鋼管株式会社との間では原告に生じた費用を二分し、その一を被告高田鋼管株式会社の負担とし、その余は各自の負担とする。

四  この判決は原告勝訴部分にかぎりかりに執行することができる。

事実

(当事者双方の求めた裁判)

原告は「被告らは原告に対し各自金一二七万四、五六七円およびこれに対する昭和四四年四月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被告らは「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

(請求原因)

一  原告は建築工事の請負を業とするものであるが、昭和四三年九月ごろ、被告高田鋼管株式会社(以下「被告会社」という)の代理人被告高田和夫から、東京都葛飾区亀有一丁目一番一〇号に重量鉄骨三階建店舗兼居宅延一九一・七三平方メートルの建築を代金概算金六〇〇万円で請負い、昭和四四年二月末日ごろに右の外装工事を完了して右建物を被告らに引渡した。

二  その後、昭和四四年四月一九日、原告と被告らとの間で、右建築の残代金として被告らが支払うべき金額は金一二七万四、五六七円である旨を確認した。

三  よつて、原告は被告らに対し、名自金一二七万四、五六七円の請負残代金およびこれに対する右確認の当日である昭和四四年四月一九日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(請求原因に対する答弁および抗弁)

一  原告主張の請求原因事実中、原告が建築工事の請負を業とするものであること、被告会社が原告に原告主張の建物の建築を依頼したこと、右建物の外装工事が原告主張のころに終了したこと、その後、原告と被告会社との間で右建築の請負残代金が金一二七万四、五六七円である旨の確認をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

二  本件請負工事にはつぎのような瑕疵があり、そのため被告は合計金三七二万円の損害を蒙つている。

(一)  本件建物は原告主張のとおり重量鉄骨一階建であるが、その荷重に耐えうる基礎工事がなされていない。すなわち、原告と被告会社との最初の請負契約は木造スレート瓦葺二階建延六六・〇一五平方メートルの建物の建築を目的としてなされ、その旨の建築確認もなされていたのであるが、原告からの勧めで重量鉄骨の建物を建築することになつた。ところが、原告はその基礎工事として平面にコンクリートを打つたのみで重量鉄骨建築としての適正な工事をしなかつた。そのために、今日まで建築確認が得られず、基礎工事を本件建物に適するようにするためにはさらに根切工事、鉄筋打込、割栗を入れてのコンクリート打等の工事をしなければならず、その費用は金八三万五、〇〇〇円を要する。

(二)  外壁には鉄板ラスシートを使用しなければならないのに軽ラス(紙)を使用したために外壁からの漏水が甚しく、これを補修するためには金一八〇万円の費用を要する。

(三)  原告は三階から屋上へ通じる階段を建物の外壁に取付けたが、その取付工事が不完全なために、その取付部からの雨水の侵入が甚しく、そのために被告は取付方法を変更し、その工事に金二万五、〇〇〇円を支払つた。

(四)  右漏水のため建物内部の壁、天井等に生じたしみの補修のために金五二万円の費用を要する。

三  被告会社に生じた右の損害はすべて原告の責に帰すべきものであるから、被告は昭和四四年一一月一七日の本件第二回口頭弁論期日において、右の損害賠償請求権をもつて原告の本訴請求額とをその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

(抗弁に対する答弁および原告の主張)

一  被告ら主張の抗弁(一)の事実中、木造建築を本件の重量鉄骨に変更したこと、木造建築について建築確認を得てあるが重量鉄骨建築については得ていないことは認める。しかし、その余の事実は否認する。

木造建築から重量鉄骨建築に変つたのは、原告において木造建築のための木材購入、刻みつけからコンクリート打の基礎工事までを終了した段階であり、被告からその旨の要求があつたためである。そして原告は、請負代金概算額金六〇〇万円に見合う範囲内で重量鉄骨建築に適するように被告高田和夫立合のうえ、金三五万円の予算のもとに基礎工事をやり直し、根切工事、鉄筋打込、割栗を入れてのコンクリート打をした。

二  被告ら主張の抗弁(二)の事実中、外壁に軽ラスを使用したことは認める。しかし、いかに重量鉄骨造であつても、外壁に防湿防水性を兼有した軽ラスの使用が許されることは建築業界の常識であり、被告ら主張の材料では本件請負代金概算額の金六〇〇万円の枠内でとうてい賄いきれるものではない。原告は請負代金の枠内で適正な材料を使用したのである。

三  被告主張の抗弁(三)および(四)の事実はいずれも否認する。

かりに、被告主張のような浸水があつたとしても、これは被告がその背信的債務不履行により原告の完全履行を妨害したためである。

すなわち、被告らは、請負代金を工事進行の程度に応じて分割払するとの当初の約束に反して、外装工事が終了したのに外装工事代金一八〇万〇、八一五円の支払をせず、かえつて原告に何の挨拶もなく外装工事に使用した原告の足場の撤去前に他の業者に内装工事を施行させた。

(証拠)〈省略〉

理由

一  原告が被告会社から原告主張の建築工事を出来高払いで請負い、昭和四四年二月末ごろにその外装工事を終了したこと、その後、同年四月一九日に原告と被告会社との間で右建築工事の請負残代金一二七万四、五六七円である旨を確認したことは当事者間に争いがない。

二  しかし、被告高田和夫が個人として原告主張の請負契約を締結したとか、その残代金を支払う旨の約束をしたという証人佐藤貞助の証言および原告本人尋問の結果は成立に争いない甲第二号証の記載に照らしてにわかに採用できず、他にこの点に関する原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

三  そこで、被告会社の抗弁について判断する。

(一)  原告と被告会社との請負契約は、当初木造二階建の建物の建築を目的とするものであつたが、後に本件重量鉄骨三階建の建物に変更されたことは当事者間に争いがない。ところで、被告は本件建物の基礎工事は重量鉄骨建築の基礎としての適正を欠いていると主張する。しかし、証人佐藤貞助の証言と原告および被告高田和夫各本人尋問の結果によれば、被告会社の代表取締役高田淑子の夫である被告高田和夫は、当初の木造建築の基礎工事が完成したころになつて、被告会社の代理人として原告に対して重量鉄骨建築に変更するように申入れ、これに従つて、基礎工事のやり直しをしたこと、その基礎工事のさいには被告高田和夫が始終立会つていたことが認められ右認定に反する証拠はない。

(二)  被告高田和夫本人尋問の結果によれば、被告高田和夫は本件建物の外壁に軽ラスを使用したことを、その工事の進行中に見て知つており、外壁からの雨漏りがすることは昭和四四年二月ごろまでの間に知つていたことおよび被告高田和夫は、三階から屋上に通じる階段の取付工事を手直しする必要のあることを昭和四四年二月ごろまでに知つてその修理を原告に頼んだことがそれぞれ認められ、右各認定に反する証拠はない。

(三)  さらに、証人佐藤貞助の証言と原告および被告高田和夫各本人尋問の結果によれば、被告会社は松戸市所在の被告高田和夫所有の建物を売却してその売却代金で本件請負代金を支払うつもりでいたが、これが売却ができなかつたために躯体工事がほぼ完了した昭和四四年三月ころ原告が当時の出来高に基く請負代金の請求をしたのに対し被告会社がこれを支払わず、そのため原告が本件建物の外装工事の完了した時点でその後の工事の進行を渋つたこと、そうしている間に被告会社は他の業者に頼んでその内装工事を完成させたことが認められ右認定に反する証拠はない。

(四)  そうして、

いずれも成立に争いのない甲第一、二号証、原告および被告高田和夫の各本人尋問の結果によれば、昭和四四年四月一九日に原告が被告会社に対して本件請負残代金として金一八四万円余を請求したのに対し、被告会社はこれを減額して金一二七万四、五六七円を支払う旨を約束したこと(この点については当事者間に争いがない)が認められるのであるから、前記認定のとおり、被告会社において本件建築工事の進行状況および工事の内容を知悉し、その外装工事の終了後、建物の占有を取得し、かつ請負代金の減額をした以上、その際特に瑕疵修補請求権あるいはその損害賠償請求権を留保しない限り(このような事実を認定できる証拠はない)、かりに本件工事について被告主張のような瑕疵があつたとしても、その修補請求権および損害賠償請求権をすでに放棄したと解するのが相当である。

従つてその余の主張について判断するまでもなく、被告会社主張の抗弁は採用の限りでない。

四  以上のとおりであるから、原告の被告会社に対する本訴請求は理由があるのでこれを認容することとし、被告高田和夫に対する請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 緒方節郎 定塚孝司 水沼宏)

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